女性外来の診察室から

107回 桂枝茯苓丸の処方が増えていませんか?

コロナ禍以降、桂枝茯苓丸の処方が増えていないでしょうか?最近桂枝茯苓丸を処方することが多いと感じており、直近の初診患者のうち漢方薬を処方した300名を対象に確認したところ、最も多い方剤は予想通り桂枝茯苓丸(168名)でした。半数以上の方に単剤または併用で処方しており、2番目に多い半夏厚朴湯(58名)の3倍近く処方しています。ちなみに「女性の三大処方」といわれる加味逍遙散は33名、当帰芍薬散は16名でした。桂枝茯苓丸が多い理由は「コロナ禍以降の身体活動量の低下」ではないかと考えています。

桂枝茯苓丸は『金匱要略』が原典で、「婦人、宿癥病あり、経断ちて未だ三月に及ばず、而も漏下を得て止まず、胎動きて臍上に在る者は癥痼妊娠を害すと為す。六月にして動く者は、前三月経水利するの時の胎なり。血下る者は断ちて後三月の胎なり。血止まざる所以の者は、其の癥去らざるが故なり。当に其の癥を下すべし。桂枝茯苓丸之を主る。」とあります。
平たく言えば、妊娠を害する「癥(ちょう)」を下し、正常妊娠を導くために作られた方剤です。桂皮、茯苓、桃仁、牡丹皮、芍薬の五味から成り、効能は活血化瘀、緩消癥塊で瘀血による鬱血を去り、それに随伴して起こる気や水の停滞を改善する駆瘀血剤の代表的方剤で、瘀血に伴う月経痛、のぼせ、頭痛、肩こりなどに用います。

女性の不調は瘀血に伴うものが多いのは日常診療でお感じではないかと思いますが、原南陽の『叢桂亭医事小言』に「婦人為病、属瘀血者、什之八九、経閉、腰脊攣急引脚、新旧腹痛、或天気陰晴、頭痛頸強、発作有時、不係虫積者、皆属于瘀血。」とあり、女性の疾病は瘀血に属するものが、8~9割.。閉経や腰や背中のこわばり、下肢の引きつり、急性から慢性の腹痛、天気が曇ったときに頭痛や頸のこわばりが発作的に起こるものは、寄生虫によるものでなければ、すべて瘀血に属していると述べています。一方当帰芍薬散も桂枝茯苓丸より作用はマイルドですが駆瘀血剤で、加味逍遙散も駆瘀血作用のある方剤ですが、桂枝茯苓丸との違いは脾虚(胃腸虚弱)があることです。脾の機能低下で気血の産生が低下したり、流れが悪化するパターンよりコロナ禍以降は身体活動量の低下から瘀血をきたすパターンが増えたのではと思います。体重が増えて困っている方は依然として多いのですが、コロナ禍以降は筋肉量の減少から体重が減ったと訴える患者さんも増えました。当帰芍薬散、加味逍遙散の証に見えて実は桂枝茯苓丸という患者さんが増えたのしょうか?身体活動量の低下によってできた癥瘕(気血の塊)を桂枝茯苓丸で下すことで多くの方が改善しています。皆様の外来ではいかがでしょうか?

 山梨県立中央病院女性専門科 縄田昌子

Copyright © 2014 Japan NAHW Network. All Rights Reserved.